何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。



会社に戻ろうと車に乗り込んだ時にはすでに暗くなり始めており、このままだと退社時間をわずかにすぎてしまいそうだった。



「申し訳ない。つい熱が入ってしまって」


「いえ、お気になさらないでください」



副社長にはそう言ったけれど、途中で何故か前方で渋滞が起こっているらしく私たちが乗る車も止まってしまう。


そのまま十分ほど経ってもほんの少ししか進んでおらず、このままだと帰るのが大分遅れてしまいそうだ。



「この先で事故があったらしく、その渋滞のようですね」



運転手の言葉に焦りが出てくる。


パトカーや救急車がサイレンを鳴らしながら何台か横を通過するものの、ここからだと事故現場まではかなりの距離がありそう。


どうしよう、このまま乗っているより降りて走った方が速いだろうか。


腕時計と正面を何度か見比べていると、副社長も「お迎えの時間、結構まずいのかい?」
と眉を下げる。



「……はい」



預けるのは問題無いけれど、このままだと夕方のおやつの時間になってしまう。そうなると予定に無い隼輔は食べられずに他の子が食べているのを見ながら遊ぶことに。


延長料金もかかってしまうためできればそれまでに迎えに行きたいところだけど、ここから走って駅に向かってもそこそこの時間がかかるだろう。


どうしたものか。


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