エリート心臓外科医の囲われ花嫁~今宵も独占愛で乱される~
不自然な結婚

逃走

 ピカピカに磨き上げられた大理石の床に、クラシックなデザインのシャンデリアが下がる天井。
 上品でラグジュアリーな五つ星ホテルのロビーを結城千春(ゆうきちはる)は振袖姿で駆け抜ける。
 居合わせた宿泊客やホテルマンが何事かと振り返るけれど、構ってはいられなかった。
 息が上がって、心臓が痛いくらいに鳴っている。

「千春さま!」

「お嬢さま!」

 後ろから自分を呼ぶ声がする。

「お待ちください!」

 でも振り返らなかった。
 ここで立ち止まったりしたら確実に捕まってしまう。千春は必死で足を動かした。
 エレベーターが並ぶエリアを突っ切って、二階へ続く大きな螺旋階段を駆け上がる。
 どこへ逃げれば安全なのか、そもそも逃げたところでなんになるのか、さっぱりわからないけれど、とにかく誰もいないところに行きたかった。
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