再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
「あれ環、今お昼？」

たまたま敬と一緒になった昼休憩。
日替わりランチを選んだ私に対して、敬が手にしているのはおにぎり1つだけ。

「敬のお昼、それだけ？」
「ああ。午後からヘリでの搬送があるんだ」
と口に頬張ったおにぎりをお茶で流し込む。

敬も皆川先生に負けないくらい女性スタッフの間では人気がある。
全てに完璧で王子様キャラの皆川先生に対して、敬は親しみのもてる身近なアイドルのような存在。
本来ならどちらと親しくしても女子の恨みをかいそうなものだけれど、敬と私が大学時代からの友人だって知れ渡っているから一緒にいても陰口を言われることはない。
むしろ敬と一緒にいることで皆川先生との尾ひれの付いた噂が下火になっていって、私としては助かっている。

「帰りは遅いの？」
「隣県の循環器センターまでだから、ヘリで40分くらいの移動時間かな。それから引き継ぎに1時間くらい。帰りは特急とタクシーの乗り継ぎで4時間はかかるから、夜になるな」
「そう」

専門的な手術が必要になった入院患者のドクターヘリでの搬送には担当医と看護師が同行する。
患者を運べばヘリはすぐに帰ってしまうわけで、同行した医師と看護師は陸路で時間をかけて帰ってくるしかない。
1時間くらいの引継ぎ時間なら待ってくれてもいいのにと思うけれど、その間に緊急搬送があったら大変だから仕方ないか。

「気を付けてね」
「ああ」

いくら休憩時間でも、仕事が入れば戻っていく敬。
医者として社会人として当たり前の行動ではあるけれど、それに対して文句も不満な素振りも見せないところを立派だと思うし尊敬もしている。
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