再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司
声を聞いただけで誰だかわかった。
それでも、敬相手にわがままな発言をした自覚もあって顔を上げることができない。

「いいんですか?」
その場にいた看護士が、敬に確認する。

「イヤです」
私は声のトーンを落として、小さな声で言った。

困ったなと黙り込む敬と看護師。
さすがに怖くて新太先生の顔を見ることができないけれど、私も引く気はない。
どんなに言われたって、胃洗浄はイヤ。そもそも今の私には必要ない。

「皆川先生、どうします?」
困り果てた敬は新太先生に助けを求める気らしい。

周りがどれだけ言っても、私が同意しなければ医療行為はできない。
もちろんそれが救命上必要となれば例外もあるけれど、今はそんな状態ではない。

「いいから、準備をしてください」
硬い表情のまま新太先生は敬に指示した。

「しかし・・・」
敬は何か言いたそうに先生と私を交互に見る。

「大丈夫、僕が話をしますから」

穏やかな口調で言う新太先生に、敬は何も言い返すことなくその場を離れて行った。
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