「ごめんなさいね、環ちゃん忙しいのに」
「いえ、ちょうど帰るところでしたので」
自宅のマンションに帰る途中、副院長のお家からの電話で呼び出された。
「実は知り合いからサザエがたくさんが送られてきたのよ。お父さんと2人では食べ切れないでしょ」
「そう、ですね」
結婚してこの家を出てからも時々顔を出している実家のような存在だから、こうして呼ばれることも珍しいことじゃない。
この地に来て、副院長のお宅にお世話になって2年。
ここでの生活にもすっかり慣れて、『副院長』『奥様』と呼んでいたのも最近では『おじさま』『おばさま』と呼ぶようになった。
本当に実の娘のように大切にしてもらい、2か月前の結婚式ではおじさまと一緒にバージンロードを歩いた。
「今日、新太さんは?」
夕食の準備をしながら私を見るおばさま。
「新太は大学病院に気になる患者さんいるらしくて、帰りに寄るって言っていましたから遅いと思います」
「じゃあ夕食を食べて行きなさい。お父さんも遅くはならないはずだから、一緒に食べましょ」
「はい」
初めからそのつもりで呼ばれたんだ、きっと。
「新太さんにも伝えておいてね」
「はい」
さすがに電話する勇気はないから、メールしておこう。