再会したのは、二度と会わないと誓った初恋の上司

変わらないものは何もない

翌日、私はやはり休暇をとらされた。
1日中部屋で過ごし、十分すぎるほど眠ったおかげで体はすっかり回復し元気に仕事に戻る事ができたけれど、今回のことがきっかけで少しばかり面倒な状況になりつつある。

「すごいですよね、抱きかかえられて運ばれる人を初めて見ました」
本人にしてみれば悪気はなく言っている看護師の言葉。

「私が気を失ったから、早く救急に連れて行こうと思ったんでしょ。それだけよ」
「そうですか?普通ストレッチャーとか使いませんか?」
「それは・・・」
普通はそうするだろうけれど。

「倒れた先生をいきなり抱き上げた皆川先生がすごくかっこよかったんですよ」
「だからそれは」

あれから1週間はたつのに、内視鏡に入るたびにこの話で盛り上がる女性スタッフ。
当の本人はもううんざりなんだけれど、止めるすべがない。
正直、この話題は恥ずかしくていやだ。
でも、まだ実際の状況を見ていた内視鏡の仲間内で話されている分にはかわいいもの。事実を何も知らず、院内を白衣のまま抱えられ運ばれる私を見た人間たちはもっとえげつない妄想を膨らませている。今や私と皆川先生は時の人になってしまった。
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