呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~

第32話



 無事に一曲目の演奏が終わると、エオノラは涼しい風に当たろうと提案する。
 彼は「構いませんよ」と言って了承してくれた。
 外にある庭園に出ると休む人はエオノラと彼以外にいなかった。まだ舞踏会は始まったばかり。序盤で休憩を挟むなんて普通なら勿体ないのだ。



 庭園に到着したエオノラは仮面を取ってにっこりと微笑んだ。
「ダンスの相手をしてくださってありがとうございます。お陰で無事に終えることができました」
「お礼を言われるほどじゃない。久しぶりに踊りたくなって側にいたのが丁度あなただっただけ」
「いいえ、私はとても感謝しています。だって、あなたがいなければ私はまた恥をかくところでした。なので、あなたのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「名乗るような者じゃない。お互いに利があった。ただ、それだけのこと」
「ですが……」
 エオノラが食い下がろうとすると、唇に青年の人差し指が当たり、続きを遮られる。

「折角の仮面舞踏会という魔法が解けてしまう」
「……私はあなたに素性がバレています」
 不満だという態度を取ると、青年は肩を竦めた。
「仮面舞踏会の前に第二王子と一緒にいたら誰だって注目する。公平じゃないと言われても仕方がないことだ。――ここでは名乗れないが、私はあなたの身近にいる」
 最後は囁き声ではあったが、その意味深な発言にエオノラの身体がびくりと揺れた。

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