呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~

第6話



 イヴに淹れてもらったお茶を飲んで少しだけ気分が落ち着いたエオノラは、気分転換に散歩へ出かけることにした。イヴが付き添おうとしてくれたが一人になりたい気分だったので、近所を歩くだけだと言って断った。
 屋敷の正門を出て振り向けば、こちらの視線に気づいた庭師が手を振って見送ってくれる。

 生まれ育ち、家族と一緒に過ごしてきた思い出のつまった屋敷。あまり顔を合わせられない両親との記憶や、兄と楽しく過ごした日々の記憶もある。それなのについ先日起きた修羅場のせいで、これまでの大切な思い出が汚されてしまった気分になる。
(大好きな場所が居心地の悪い最悪な場所になるなんて……)
 エオノラは庭師に手を振り返すと、屋敷に背を向けて歩き始めた。


 特に目的の場所というものはないが人混みよりも自然に溢れた静かな場所で一人過ごしたい気分だった。そうなると、自ずと足が向かう先は死神屋敷がある方角だ。
 あの辺りにある屋敷は死神屋敷の一軒だけ。近くには野原と綺麗な小川があって、この時期、川の水に足をつけるのは気持ちが良い。
(死神屋敷の前を通るだけなら問題ないわよね)
 先日の件やラヴァループス侯爵の呪いを思い出して少しだけ身が竦む。

 侯爵の醜い顔を見た人間は死んでしまう――とはいっても、死神屋敷に足を踏み入れず、侯爵に会わなければ危険な目には決して遭わない。
(杖なしでは歩けない老人だというし、普段は自室に引き籠もっているって噂を何度も耳にしたから……)
 だから屋敷の前を通り過ぎるくらいどうってことないはずだ。

 変な自信が湧いてきたエオノラは背筋をスッと伸ばした。大通りの角を曲がってから暫く歩いていると、不気味で異質な雰囲気を漂わせる死神屋敷が見えてくる。
 死神屋敷がある通りはエオノラ以外誰もいなかった。さっさと通り抜けてしまおうと、歩くスピードを上げていく。

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