呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~

第16話



 四阿に来ないかもしれないと少し不安だったのでほっとする。
「これはクゥにやるんじゃないのか? てっきり犬用の皿にでも盛り付けてくるのかと思った」
 嫌味を零しながら席につくクリス。
 エオノラは一瞬だけ嫌味を言われて面食らったが、これがわざとだと分かっているので、挑発には乗らなかった。
「いいえ、これは侯爵様の分です。心配いりませんのできちんと召し上がってくださいね。クゥには後で別のものを用意します」
 その言葉を聞いてクリスが片眉をぴくりと動かした。

「……おい、あいつに何を与える気だ?」
「冷蔵箱に肉の塊があったのでそれをあげようと思っています」
「やめろ。あいつは生は食わないし、肉ばかりも食わないぞ」
 意外な答えを聞いてエオノラは驚いた。
 クゥは飼い慣らされた狼なので野生とは少々食べるものが違っているようだ。
「随分グルメな狼なんですね。承知しました。それでは先に召し上がってください」
 手で料理を示せば、クリスがおずおずとナイフとフォークを握り締める。
 焼きたてのパイはナイフを通せば生地がサクサクと小気味よい音を鳴らし、中からはホワイトソースと細かく刻まれた野菜がとろりと溢れ出てきた。
 クリスはそこで手を止める。

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