呪われ侯爵の秘密の花~石守り姫は二度目の幸せを掴む~

第21話



 ◇

 クリスは突然のハリーの訪問に驚いた。それ以上に驚いたのはハリーがエオノラのことを『エオノラ嬢』ではなく『エオノラ』と呼んでいたことだった。
 何故急に馴れ馴れしく呼ぶのだろう。もともと格式張ったことが苦手な性格だから、もしかすると非公式な場ということでやめたのかもしれない。
 しかし、自分よりもエオノラと関わる機会が少ない彼に先を越された気がして苛立ちを覚えた。
 わざわざエオノラのためといって差し入れを持ってきたことも気に食わない。確かに宮廷の菓子職人が作るお菓子はどれも芸術的な見た目かつ美味である。

 頭では理解しているがまんまと出し抜かれたような気がするのは何故だろう。狼の姿でなければもっとやりようがあったのかもしれないが、ハリーの脛を噛んで鬱憤を晴らすことくらいしかできなかった。
「はあ、なんとも情けないな」
 ハリーとエオノラが帰って暫くした後、クリスは鳥かごの前に座ってルビーローズを眺めていた。
 陽は山肌に沈み、空はオレンジ色から紫色に染まっていく。直に夜の帳が下りるだろう。
 クリスは悠々と飛ぶ鳥の群れから視線をルビーローズへと移した。
 相変わらず開花する気配はない。あと一歩で呪いは解けるというのに何かが足りない。
 先代侯爵は狼神話に呪いを解く手がかりがあると一枚の紙に書き残してくれていた。

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