囚われて、落ちていく
東矢は、都麦にとって全てが初めての人。
都麦の“青春”その物だ。

ごく自然に東矢が都麦の手を握る。
振り払えない。

“俺、都麦といると疲れる。もう一緒にいたくない”
あんな振られ方をしたのに。

別れた後立ち直るのに、あんなに苦労したのに。

「都麦、ごめんね。
あんな振り方して……」
「ううん。もう…いいの」
「結婚…したって聞いて、びっくりした。
旦那、どんな人?」

「とっても素敵な人。
穏やかで、優しくて、カッコ良くて……
あ!あと、過保護で心配性な人」
「フフ…」
「え?東矢くん?」
「都麦が俺に言ってくれたことそのままじゃん!」
「え?そ、そうかな?」

「なんか、嬉しいな!」
フワッと微笑んだ、東矢。

この笑顔だ。
都麦は、東矢のこの笑顔が一番好きだった。

でも…………
「東矢くん」
「ん?」
「私ね…」
「うん」
「東矢くんのこと、大好きだった」
「…………過去形なんだ…」

「今、幸せなの!
刹那さんのこと、愛してるから」
東矢を見上げ、微笑んだ。

「………“愛してる”か…」
「うん////」
「そう…
俺は……」
握っていた都麦の手を更に握りしめた。

「東矢くん?」
「………いや、何もない…」

「ねぇ!いい加減、手を離しなよ!」
そこに佐和の声が響いた。

「あ、ご、ごめん!」
「ううん」
それから、東矢も入れて四人で少し話をした。


東矢に家まで送らせてと言われ、断りきれずゆっくり歩いて帰っている二人。
東矢は歩きながら、さりげなく都麦を歩道の内側に誘導する。

「あ、たい焼き」
東矢が不意に言った。
「え?」
「ほら、よくたい焼き食べながら帰ってたよね?」
そう言って、和菓子屋を指差す東矢。

「あ、そうだね!
あの時食べてたのって、特大だったから私食べれなくて………」
「フッ!そうそう!俺が半分食べてあげてたよな~!
…………食べない?たい焼き」
「え?でも夕食前だし、帰ってご飯作らないと………」
「いいから!!
ちょっと待ってて!買ってくる!」
そう言って、和菓子屋に駆けていく東矢。

「え!?ちょっ…東矢くん!」
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