囚われて、落ちていく
「つむちゃん、何見てるの?」
その日の夜。
晩酌でもしようかということになり、ソファでワインを飲んでいた二人。

都麦は刹那に後ろから抱き締められ、雑誌を読んでいた。
「ん?」
「たい焼き?」
後ろから覗き込んできた刹那が言う。

「うん、高校生の時よく食べたなぁって…!」

「は?それって……」
「へ?あ、いや、高校の近くに移動販売のたい焼きがあったの。だからよくみんなで食べてなぁって」
「………」
「刹那さん…?」
都麦が後ろを振り返り、刹那に向き直る。

「聞きたくないな」
「え……」
「僕のいない頃の話なんて、聞きたくない」
「ごめんね、もう言わない」
「ううん。つむちゃんが悪いんじゃないよ?
この雑誌がダメなんだよ。こんな雑誌……燃やしちゃおう」
「え…!?燃や…す?」
「うん、僕は“いらない”モノは全て、跡形もなく消し去りたいんだ」

「なんか…刹那さん、怖い……」
ブルッと身体を震わせる、都麦。

「あ…ごめんね……つむちゃん」
「最近の刹那さん、時々凄く怖い…
どんな刹那さんも大好きだけど、やっぱり怖い刹那さんは苦手……」
俯き、刹那の服を握りしめた。

「ごめんね、つむちゃん。ごめんね!」
刹那は都麦を抱き締めた。
そして背中をさする。
「うん…」
刹那の肩に顔を埋めた。
「でもね……」
「え…?」

「僕の発言には一切………何の偽りもないからね」
「え……」
「忘れないで?
僕と都麦の中を引き裂くモノ全て……僕が消し去るから」
都麦は顔を埋めていて刹那の表情はわからないが、抱き締められている感覚でわかる。
きっと恐ろしい表情をしているのだろうと……

「………」
「つむちゃん?」
「刹那さんは…」
「ん?」

「本当はとっても、恐ろしい人だね………」

「うん、ありがとう」
「……なんでお礼を言うの?」

「嬉しいから。
“恐ろしい”なんて。
だって“恐怖”は、その人間の心の中に一生住みつくことができるから。“愛情”よりもずっと深く……
そう思わない?」

「…………やっぱり、刹那さんは怖い……」
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