小さな願いのセレナーデ
さあと急かされて、とりあえずバイオリンをケースから取り出した。
彼は一人でステージのピアノの前に座ると、「何にする?」と振り向いて聞いた。
「何なら俺じゃなくて蒲島先生でも」と言われて蒲島先生を探すと、もう反対の舞台袖でチューニングして準備していた。何だか少し鼻に付くので、バイオリン二重奏や三重奏は選択肢から消した。
「……あの曲がいいかな」
おそらくこの曲だと、秀機君も演奏し慣れているだろう
私はステージに上がり、秀機君に耳打ちすると「わかった」と。
そして一人、ステージの中央に向かった。
(ここが、ラークホールの舞台…)
顔を上げると──がらんとした客席。
思ったよりも二階席は近くにはっきりと見える。一階席も後方まで見渡せて、きっと人が居たなら顔まで見えただろう。前方にはみんなが座る姿と、碧維が階段を走り回っている様子が見えた。
天井を見上げると─煌びやかなシャンデリア。
チカチカと目映く光が、初めてここに来た時のことを思い出させる。
あぁここが、私がずっと憧れていた場所だ。
一度は立ちたいと願っていた場所なんだ。
そう思うと、自然と涙が込み上げる。