小さな願いのセレナーデ
彼女はいつも、こういう人達と一線を置いていた。自分と違う世界に生きている。そう諦めながら。

「これから、下里さんとはどうするつもりですか?」
「正式に碧維を認知して、籍を入れたいと思います」
「それが彼女が望まないことでも?」

無表情な彼の顔が、一瞬怯むのを見逃さなかった。

「どうして君に黙っていたか、心当たりはあるんでしょう?」

彼女はどちらかと言うと、謙虚で目立つのが億劫な子。音楽以外で注目を浴びることを、とことん避けているような子だ。
その子と正反対の位置の彼。ホテル会社の社長で世間からも注目を浴びる存在と、しかも短期間の交際で妊娠したという事実が明らかになることに、耐えられなかったのだろう。


「ええ、でも私には、彼女しか居ないんです」

彼は再び、頭を深く下げる。

「今まで知らなかったとは言え、全て私の不徳の致すところでございます。私は生涯をかけて、晶葉さんを守ります。必ず幸せにすると、そう誓います」

正直、本気なのかも知れないとは思っている。
だがやはり、彼が彼女を選ぶことには……まだ納得はできない。


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