小さな願いのセレナーデ
海外事業は、父がずっと力を入れていた一つだった。
父の祖父─つまり私からすると曾祖父が手放したものを、取り戻したいとずっと奔走していたのだ。
海外の手放したホテルを取り戻すのは、曾祖父、祖父も合わせて三代に渡っての悲願だった。
これをお兄ちゃんは、簡単にやってのけた。


「俺に付くことを選ぶなら、全部俺が瑛実のバックアップをする。ただし、親子仲の修復は無理だと思っておいてほしい」

親子仲の修復──そう言われても、正直ピンとはこなかった。
だって私の中には、最初から『親』はいない。

「いいよ、私はお兄ちゃんを選ぶ」

そして私は、お兄ちゃんと日本で暮らすことを選んだ。


とは言え、両親が本格的に海外に行ったとしても、あまり生活自体は変わらなかった。それほど両親不在の長い生活を送っていたから、当たり前だと思う。

高校に進学しても、私とお兄ちゃん、たまにユキさんが来てくれる生活は、前と何一つ変わらなかった。
まぁ変わったと言えば……お兄ちゃんが保護者として、登場する事が増えたぐらいだ。
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