小さな願いのセレナーデ
なぜか妙に私の学校生活には協力的で、それこそめんどくさい学校の三者面談などにも出席してくれた。それで高校の先生を通じて、うちのホテルで大学生の演奏会なども開催されるぐらい、普通に保護者として学校側とも溶け込んでいた。正直、以前だったら考えられなかった話だ。
まぁ親への当て付けもあるんだろうと思っていたが。

そう言えば、何か笑うようになったなぁって。そう思い始めていたのもこの頃からだった気がする。気付いたら機械でできたメッキの皮が、少し剥がれてきているんじゃないかな?というような印象を受けていた。

だけどたまにリビングで目にする姿は、落ち込んだように深く沈んだ顔だった。
ソファーに深くもたれ掛かって、その顔でぼーっとしていた。前は絶対に聞かなかった、クラシック音楽を聴きながら。


──彼女居たんだろうな。別れちゃった?

きっと彼女ができて…まぁそれで縁談を断りたくてお父さんを海外に追いやったは良いが、彼女に逃げられたんじゃないかなと。
だけど暖かい思い出が、ずっと心にあった氷は溶かしてくれんだろうなと。そんな事を密かに予想していた。


ちなみに聞いていた音楽は、弦楽四重奏を始めとしたシューベルトの交響曲集。
どれも悲観的なメロディーで、それが今の心を表してるようだった。
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