小さな願いのセレナーデ
それにやっぱり、思い知らされてしまった。
私は日本にいる限り、何処に行っても『久我のお嬢様』という言葉は付きまとう。
確かにそれを傘に生きてきたのは本当。だけど実力を一度も見てくれず、レッテルを貼られることも多かった。
だから一度日本を出て、フラットな状態になりたいと思ったのだ。


そんな時に、東京でウィーンの大学のセミナーが行われるとお兄ちゃんに教えられて、足を運んだ。
まぁそこで晶葉先生も学んだゲルハルト先生に、自分も惹かれたのは偶然だろうけど。
私も晶葉先生も、その晶葉先生を選んだお兄ちゃんも、結局は似た者同士なのかも知れないなーと思っているのはここだけの話だ。


「瑛実ちゃん、ありがとうね」

ごちそうさまをした碧維の頭を撫でながら、晶葉先生は私に笑いかける。

いや、先生じゃなくて……本当はお姉ちゃんと言いたい。
確かに厳しい所はあるけど……納得できない所はとことん、わかるまで根気よく付き合ってくれるし、絶対に否定する言葉は使わない。
演奏で「ダメだ」という言葉は絶対に使わないし、どんな些細なことでも人一倍褒めてくれる。そんな優しい人だ。
だから私はこの人を信用できるし、好きだと思う。
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