小さな願いのセレナーデ
数年後、家族の中で
「ただいま」
「おかえりなさい、碧維君、晶葉さん」
玄関のドアを開けると、ユキさんが迎えてくれた。いつもインターフォンを押した時から、迎える準備をしてくれているようだ。
「晶葉さん、もう生徒さんいらしてますよ」
「えっ、ごめんなさい!急ぎます」
ユキさんは脱がせづらい碧維の指定靴を脱がせてくれている。
私も慌ててパンプスを脱ぐと、ユキさんが綺麗に下駄箱にしまってくれた。
「碧維、着替えたらユキさんからおやつもらってね。お仕事してくるから」
「うんわかった、お母さん」
碧維の上着を脱ぐ手伝いをしようかとしたが、碧維はするっと脱いで手に持つ。
そのままユキさんと廊下を歩いていった。
後ろ姿を見送りながら、随分大きくなったし逞しくなったな……と思う。
もう碧維は五歳。幼稚園の年長になった。
キリがいい二歳で、私と碧維は名前を久我に変えて、ここで暮らしはじめた。碧維はここに近い幼稚園の二歳児クラスに転園して、今もそこに通っている。教育と運動両方に力を入れていて、昂志さんが吟味して選んだ園だ。
ずっと「ママ」と纏わり付いていた頃が懐かしいぐらい、しっかりとした子に育ったと思う。やんちゃだった性格の片鱗は……大いに残っているが。