即座に視線を反らしたが、一瞬目が合ってしまった。
そのまま下を向いて歩くが、彼に追いかけられて捕まる。

「晶葉……」
彼の懐かしい、私を呼ぶ声。少し目頭がじんわりと滲んだ。

「どうして……」
「晶葉こそどうしてここに居るんだ?」

どう答えようかと思っていたところで、重苦しい視線を感じた。そう、さっきまであの癪に障る声を上げていた、あの女性。声の印象とは違い、顔立ちは随分と華やかで、どこかで見たことがある顔をしていた。だから芸能人なのかも知れないが。


「悪いけど、この人が付き合ってる人だ。だからもういいだろ」
彼がそう言い、私は驚きのあまり固まり……彼女は小さく舌打ちをして、踵を翻して行った。

彼女が去っていくのを確認すると、彼は私の肩をしっかりと抱き…というか捕まえ、歩いていく。
隅にあるドア─従業員専用口に押し込まれると、壁に詰め寄られた。


「晶葉、何でここに居る?どうして連絡くれなかった?」
「……ごめんなさい。本当にごめんなさい。携帯が使えなくなってしまって、バックアップの復元もできなかったの。今日ここに居るのは、私の教え子がロビーラウンジで演奏していたから、見に来たの」
睨み付けるような、鋭い視線が怖くて俯く。