小さな願いのセレナーデ

結局あの後一時間ほど遊んだので、何故か夕飯までお世話になることになった。
いくら断っても『碧維君と一緒に』と押されてしまった。私はとことん押しに弱いタチらしい。


「はい、あーん」
「あーん」

碧維は口を開けて、瑛実ちゃんにスープの野菜を食べさせて貰っている。
具だくさんのポトフのキャベツが、碧維の口に入った。

「えっ、食べた!」
「そんな驚きます?」
「普段カレーぐらいしか野菜食べないの。あとホットケーキに混ぜるとかしないと」

本当に家では野菜を食べない碧維だが、瑛実ちゃんから食べさせてもらうスープは、もりもり食べている。
心なしか少し嬉しそうで……やっぱり男の子なんだなと。
可愛い人の前だと、カッコつけたいらしい。


遊びすぎたか気が張って疲れたのか、食べ終わって帰る頃には碧維は眠そうにしている。抱き上げるとぐっと体重がかかり、うとうとと眼を半分閉じている。

「送りますよ、先生」
昂志さんが立ち上がって、車の鍵を手にした。

「いや、ベビーカーありますから大丈夫…」
「今日はチャイルドシート付いてますよ」
「いや…」
「先生!雨降るって!是非送ってもらってください。見送りますから行きましょう」
瑛実ちゃんが、スマホ片手にベビーカーと私のバイオリンを持つ。

結局また瑛実ちゃんに押される形で、昂志さんに送ってもらうことになった。
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