「ごめんな、側にいてやれなくて」

その言葉に、首を横に振る。
彼に何も落ち度はないはずだ。

「正直、連絡を取れなくても楽団には居るからと楽観視してたんだ。ちょうど俺も忙しくて、連絡が無くてもまぁいいかって……でも落ち着いた頃に調べたら、君は既に退団していたことを知った」
「そう、だったんだ」

特に私の退団は、何処にも取り上げられることはなかった。事故の件も含めて、私のせいで先生や大学側に不利な状況にはしたくなかったから、そう望んだのだ。
それに……本当に音楽業界からひっそりと消えようと、そう思っていたからだった。

「ごめん……辛かったよな…」
「あなたは何も悪くない……悪いのは全部から逃げてた私なの。本当にごめんなさい」


正直何度か考えたことがある。
彼に会いに行こうか。彼に子供がいると伝えようかと。
でも……全部今更な話だった。
今更彼と向き合う気力は残されていなかった。ましてや、彼は婚約していると思っていたから。

だからきっと、このまま暮らして行く方がいい。
ようやく私と碧維で、普通の暮らしができるようになったのだから。
変に世間が騒いでも、正直困る。大学のブランドが直結する仕事もしているのだ。そう思って碧維のことは、黙っておくことにしたのだ。
それにやっぱり……私には不似合いな人だと、そう思うから。