──あそこできっと、私達は切れる運命だったのだろう。

「私達は、縁が無かったんだよ」

でも碧維を授かれたことは、彼に感謝している。きっと碧維が居なければ、私はバイオリンを辞めていたから。


しばらくすると、車は家のマンションの前に止まった。
先に碧維を運んで寝かせ、車に荷物を取りに戻った。

「ありがとう。すごい雨だから助かりました」

彼からマンションの入り口で最後の荷物─碧維のおもちゃを受けとる。外は雨がザーザーと、凄い勢いで地面に打ち付けていて、きっとあのまま電車で帰っていたら、ずぶ濡れだっただろう。


「なぁ、俺らは『縁がなかった』そう言ったな」
「ええ」
「俺はそう、思わない」

私を見つめる彼の顔に、心臓がドキリと音を立てる。早い鼓動のまま、彼が触れる距離まで近付くと─そっと唇に口付ける。
一瞬だけ触れると、すぐに離れた。


「俺は君たちのこと、諦めないから」

そう言うと、車に乗り込み去っていく。
それを眺めながら……ボタボタと涙が溢れる涙を拭う。

彼のキスは、ウィーンの時と同じ。
全部が輝いていた、あの時と同じだった。

そして嫌なほど、自覚させられる。
いくら不釣り合いでも、別世界の人でも──私は、あの人のことが好きなんだと。