発作でさえも、
『あいたい』


漢字へと変換する前に指がキーボードの上を彷徨う。

電話でなら軽口みたく笑って言えるのに、文面では一呼吸置いてしまって、一気に臆病になる。

LINEだと返事はいくらでも取り繕えるから本当の気持ちなんてわかりやしない。だから相手に身勝手に縋って自分の気持ちを押し付けてるんじゃないかって、不安になってしまうんだ。


時計の秒針が刻む音だけが響く部屋の中で、ト、ト、ト、文字を打ち消していく。


たった4文字、あっという間に消えていって。


されど4文字、1文字消す度埋めきれない寂しさだけ、しんしんと降り積もった。



文字を消した後も気持ちだけは消せなくて、トーク画面をじっと見つめてしまっている。


そもそも時間が遅いからもう寝てるだろうし、LINEも電話もどうせ無意味なんだろうけど。


それでも、


――――ああ、会いたいなぁ。


代わり映えのしない毎日の中、些細な拍子で君を思い出して、癖のように心の中で『会いたい』と呟く。
< 1 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop