愛しの君がもうすぐここにやってくる。

「・・・紫乃様、・・・紫乃様、大丈夫ですか?」
遠くに聞こえる桔梗さんの声にやっと私は気がついた。

「あ・・・、なに、ここどこ?」
さっきまでいつも過ごしている場所にいたはずなのに・・・。

ここは薄暗く、しんとして寒い。
目を凝らして見れば部屋の隅に崩れてしまった御帳台、破れた几帳、割れた食器・・・、いろんなものが散らばってかび臭い。

雨も土砂降りになってきたようで、さっきの雨音より少し怖さを感じる。
「どうやらさらわれたようです、申し訳ありません」
「さらわれた・・・?」
「はい、さきほどの雨、その雨粒の中に邪悪な雨粒が紛れ込んでおり、私が気づくのが遅れてこんなことに・・・」
申し訳なさそうに桔梗さんが言う。

「それってどういうこと?」
「だれがこんなことをしたのか・・・私にもわかりません。
本当にすみません」
また謝り、落ち込んだ様子で桔梗さんは話す。

「そんな謝らないでください。
もしさっき私がひとりだったとしても結局はこうなっていたか、もしかしたら今よりもよくない状況になってしたかもしれないんだし。
そんなことよりもなんとかしてここから逃げ出さないと」
そう言いながら私は懐から上靴を取り出す。

こんなときにも役に立つんだな、と変なところで自分に感心する。


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