何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

神のいない国



「星羅!演説聞きに行くよね?」

昨日の発表にも関わらず、瞬く間に天使教の演説が行われる事は、町に 広がり、たった一夜でこの町の大イベントとなっていた。
結局、京司の思い通りにはならず、彼の意思とは反対に、演説は強行される事となってしまった。
やはりこの町では、天使教が絶対。
人々は、彼が演説をすると聞いただけで、安堵の表情を浮かべていた。
そんな簡単な方法でこの国の平穏が保たれるならば、いくらでも天使教に演説をさせよう。
宰相達がそう考えるのも無理はない。

そんなイベントを華子がほっとくわけない。
もちろん、今日の授業も休みになる事が決定していた。

「ええ。」

ワクワクが止まらない華子とは正反対に、星羅からはいつもの落ち着いた声が返ってきた。

「天音は?」

華子は、もちろんその部屋にいる天音にも尋ねた。

「…いい。」

しかし、天音は今日もボーッと窓の外を眺めているだけで、その一言だけしか言葉を発しなかった。

「…なんで?顔!見れるかもしれないよ?」

やっぱり、華子にとっては、それが最も重要なポイントらしい。

「…華子ほっときなさい。」

星羅はそう言って部屋を出た。
今となっては抜け殻となった天音を、星羅は全く相手にしていない。

「冷たいなー。じゃ、行ってくるね!」

しかし、華子は違う。
今も毎日、天音に前と同じように声をかけていた。
しかし、今日も天音からの返事はなかった。


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