揺るぎのない愛と届かない気持ち

後悔2 〜東吾

俺は紗英が危ないお産をして、
やっと赤ん坊共々命を繋ぐことができたと
会社に報告をしていた。

総務からは出生届を出されたら、
こちらにも書類を出されてくださいと
念を押されていたが、
どうしたんだろう名前は決めたのか、
出生届は出したのか。

それすら、紗英に聞くことができなかった。

長内とあれから直接会うことはなかったが、
携帯で
紗英のことや赤ん坊のことは話していた。

問われたことしか返さなかった。
返事したくないことは、そのままスルーをした。

自分に余裕がなかったのもあるが、
今、
長内と関わり合いたくなかっただけだ。

己の不甲斐なさを、長内を見ると
余計に感じる。

しかし、お義母さんからの宿題がある。

意を決して、
長内に話したいことがある。
とメールで連絡をし、
業務終了後によく行く。。。

長内とよく行った居酒屋で待ち合わせた。

思い返してみれば、友達と言いながら、
二人でよく飲みに行ったり、
食事に行ったりしていた。
結婚してからも、
少し頻度は少なくなったとは言え、
なんの不思議もなく長内と二人で
出かけていた。

俺にはやましい気持ちなどなかったから、
他の同期や大学時代の友人と一緒に
出かけるくらいの気安さで
長内と出かけることを
全て紗英に連絡していた。

紗英もわかりましたと返事をするだけで、
きっと、
何も気にしていないと思っていたのだが、
本当は
いい気持ちはしなかっただろう。


そういえば
紗英が長内絡みで俺をなじったことが
2度あった。

一度めは
紗英がつわりが酷くなった日、
俺は仕事帰りに長内と会っていた。
プロポーズされているが、一歩踏み出せないと
悩んでいたので、その相談に乗って、
遅くなった。

夜遅く帰宅したら、
紗英がぐったりとしていたので、
慌てて
病院へ行こうと紗英を抱きかかえた時だった。

「長内さんは大丈夫だったの?
長内さんの気持ちの変化には気づくのに、私の変化には
気づかないのよね。」

紗英には長内が悩んでいるから、話を聞くと連絡をしていた。

「そんなことはない。」

「長内さんの相談に乗ってくるって、
私に言えばいいと思っているの?

東吾さん、お酒臭い。

私は大丈夫だから、明日の朝で病院は
大丈夫だから、少し離れて。
お酒と香水とタバコの匂いで、
また気分が悪くなりそう。」

真っ青になりながらもそう言う紗英に、
体調がよくないから、
こういうことを言うんだと、能天気に思っていた。

紗英は臭くて一緒には寝られないと言って、
和室に入って行った。

友達だから相談に乗るだろう、普通。
長内も散々俺からの相談に乗ってくれていたのに、
と、紗英の態度に、不満すら抱いた俺だ。

あくる日、
寝坊した俺を放っておいて、
紗英は一人で病院へ行ってしまった。
まだ
機嫌が直ってないんだ、、、
ぐらいの軽い気持ちしかなかった俺。

それから月日が経って、
お腹もふっくらとしてきて、
体調も安定した頃、もとの落ち着いた紗英に
戻ったような気がした。
やはり、あの日はつわりで体調も気分も
マイナーだったから、
あんなことを言ったのだろうと、
俺は勝手に結論づけた。

長内とは、紗英から詰られて以来、
会社帰りに飲みに行ったり
食事に行ったりすることを、極力避けていた。
やはり、本意でなかったにしろ
紗英が一番大変なときに、
自分だけ出かけるのは気が引けたし、
そんな時間があったら、
紗英のために使いたかった。

そんなときに2度目のことが起きた。
紗英もすっかりと落ち着き、
休みの日は二人してのんびりとしたり、
近所までの散歩に行ったりと、
生まれてくる我が子の話が
会話の中心となっていた。

ある休みの日。
長内から電話がかかってきた。

「長内からだ。。。」

「。。。。。」

紗英は表情ひとつ変えなかったが、
それは、いい気分ではないということだ。
俺もつい罰が悪そうに電話に出た。

今日、
婚約者と一緒に結婚式場の模擬パーティーに
行くはずが、婚約者が急に行けなくなった。

自分以外は全員カップルで来るし、
その日、
衣装も決める手筈になっていたから
婚約者の代わりに来て、という電話だった。

さすがに俺は、他の日にしろとか、
代役でもなんで俺が
行かなくてはいけないんだとか
長内に言ったが、間際で変更不可能だし、
俺と婚約者とは体型も似ているから
と、
聞く耳持たずなような状態でお願いされ、
とうとう断りきれずに行くと
返事してしまった。

紗英は、俺の話を聞いてため息をついた。

「長内さんと結婚するの?重婚になるけど。」

「はぁ、どうしてそうなるんだ。
長内が困っているから
頼んできただけだろう。」

「そんなことを頼むなんて、、、
きっと私が嫌な気持ちになるってわかっていて
彼女は頼んだのよね。」

「長内はそこまで考えるような
意地が悪い人間じゃない。
紗英さんには申し訳ないけどって、謝っていた。」

「口では何とでも言えるわよね。」

「長内のことを悪くいうなよ。
何年も付き合ってきたんだ。
長内はそんな意地が悪い奴じゃない。」

なるべく穏やかに、紗英のいうことを否定した。

「そうね。私より長い付き合いですものね。
長内さんも私より、東吾さんのことを知っているでしょう。

東吾さん、、、他の人に聞いてみて。こんなことがあって、
うちの妻は
臍を曲げて、実家へ帰りましたって。」

「紗英!
俺たちはそんな仲じゃないって、
知っているだろう。
なんで実家に帰る必要があるんだ。」

「早く支度しないと、間に合わないんじゃないの。」

「迎えにきて、紗英に挨拶をするって言っていたから、
まだ、大丈夫だ。」

「東吾さん、、、
私は長内さんとは会わないわよ。
自分たちで勝手に行ってきて。」

紗英はそれから一言も話さずに家を出た。
本当は追いかけて行って、
謝ったらよかったのかもしれない。

俺は友達の悪口を言われ、気分を害していた。
馬鹿だった。
紗英の言うことが正しかったんだ。
長内は下心があって、
俺たち夫婦の仲を引っ掻き回したんだ。

結局その日は、
式場での長内の婚約者代理の席に居た堪れずに、
貸衣装の打ち合わせも、
日を改めてちゃんと婚約者と行けと言って、
一人で帰った。

長内も
紗英さんが怒ったんじゃ仕方がないわね。
と苦笑していた。

俺は紗英の怒りに理不尽さも抱きながら、
長内の強引とも言える今回の件に
違和感を覚えていた。

紗英が言ったように、俺がおかしいのか、
紗英と知り合うきっかけとなった
あの結婚式の時の新郎、親友の矢島 海斗(やじま かいと)に
話をしてみた。

開口一番。

「お前が、おかしいよ。
そりゃ紗英ちゃん怒るよ。
むしろそれくらいで済んで
良かったなって思う。
俺んとこの、香衣(かえ)だったら、
俺今頃この世にいないぜ。

本当にお前と長内って歪な関係だな。」



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