白檀の王様は双葉に芳しさを気付かせたい
プロローグ

 その日、私、こと、天橋ふたばはパリにある、ロテル・リッツホテルの中のバーカウンターに座っていた。
 バーと言っても、静かなバーではなく活気のある場所だ。にぎやかな中にいる方が、なんだかやけに安心するのは昔からだ。

 先ほどまで隣でいつも通り弾丸のように話し続けていた私の兄・天橋昌宗は、一足先にパリ市内の自宅に戻って、今は私一人。
 それでも寂しいとかそんな感情を持つことのないこの明るい雰囲気の場所に、安心していた。

 落ち着いたところで、考えは日本に戻った後のことに至る。

 代々続く家業である天橋不動産のことは少し心配だけど、経営はこの半年で上向きになりつつあった。
 ただ、今一番の楽しみはもちろん『あの』婚約者のことだ。

 今回もパリから帰った後、すぐに会う約束をしている。
 それは私にとってまるで、クリスマスプレゼントの箱を開けるようなものだった。

 彼はどんな顔をするのだろう。
 そして私に何を言うのだろう……。

 それを想像するだけで楽しい気分になって、つい鼻歌などを歌いそうになる。

 彼とは、実はもう来月には入籍し、同時に新居に引っ越しをする予定となっていた。普通に考えても、今は幸せ真っ盛りの状態である。
< 1 / 232 >

この作品をシェア

pagetop