身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
仁との愛撫を堪能する権利など、己にはないというのに。

気がつけば両手の拘束はなくなっていたが、それでも抵抗しなかったのは、仁の手ほどきにうっとりと酔いしれていたからだ。

初めて味わう快楽。女性としての喜び。四肢が快感を求めて勝手に動いてしまう。

仁の指先は、椿の体を撫で溶かし、大人の女性へと作り変えていった。

気を抜くと絆されてしまいそうだ。あくまで世継ぎを産むためであって、そこに愛など存在しないのに。

菖蒲もかつて同じことを仁としたのだろう。それこそ、何十回と。

だが、その行為の根底にあるものは、椿のときとはまったく違っている。

菖蒲に対するは愛で、椿へのこれは単なる子どもを作る作業だ。

「仁さん……」

心地よさに溺れ、とうとう椿の目に涙が滲んだ。がむしゃらに、その逞しい背中に手を伸ばして体を重ねる。そして。

痛みも恐怖も訪れぬまま、ただ心地よいだけの作業が終わってしまった。

途中で意識が遠のき朦朧としていた椿は、自身の体に種を宿されたのかどうかもよくわからなかった。



目が覚めると、隣には整った顔で寝息を立てる仁がいた。

起こさないようにそうっと辺りを見回すと、ベッドサイドにある時計は一時を指している。もう深夜だ。
< 13 / 258 >

この作品をシェア

pagetop