「わぁ! 素敵よ、仁! 似合ってる!」

はつらつとした姉の声が響いてきて、椿は廊下を歩く足を止めた。

閉じられた襖にふたつの影が映っている。ひとりは姉の菖蒲。

もうひとりの方、菖蒲よりも頭ひとつ分大きな影は、京蕗仁――菖蒲の婚約者だ。

「菖蒲の見立てがいいんだろう」

仁の優しい声も響いてくる。

仁は旧財閥の子息で、若くして大手不動産会社の経営者に就任した。

投資家としての才もあるようで、大小様々な企業の大株主として名を連ねている。

日本にとどまらず海外にも多くコネクションを持っており〝財界の新星〟と呼ばれ周囲から期待されているらしい。

そんないかめしい肩書きとは裏腹に、本人は物腰が柔らかく穏やかな人だ。

いつもにこにこと菖蒲を見守っている。怒ったところなど見たことないし、想像もつかない。

椿はこの家やみなせ屋の店舗でふたりが一緒にいるところをたびたび見かけるが、はしゃぐ菖蒲とそれを見守る仁は、とてもお似合いの恋人同士に見えた。