身代わり花嫁は若き帝王の愛を孕む~政略夫婦の淫らにとろける懐妊譚~
「ごめんなさい、なんだかすごく楽しそうだったから、つい。お姉ちゃんの見立てってことはお着物でしょう? どんな着物を選んだのかなぁと思って」

「気になったのはそこ? 本当に着物バカなんだから」

菖蒲はつまらなそうに肩を竦めて、仁の前からどいてくれる。

仁が着ていたのは、背中に紋の入った重厚な焦茶色のお召。

お召とは、フォーマルな場や準礼装としても使える、光沢のあるしなやかな素材の着物だ。

みなせ屋で取り扱っている反物の中でも最も上質なもので、貫禄のある深い色味を選んで仕立てるあたり、菖蒲らしいチョイスといえる。

「とても素敵です! 仁さんは背が高くて首のラインもすらっとしてらっしゃるので、どんなお着物も完璧に着こなしてしまいますね!」

「ありがとう、椿ちゃん」

ふたりのやり取りを聞いていた菖蒲が割り込んできて、仁の腕を強く引く。

「仁さん仁さんってあんた、手を出そうったってダメだからね。彼は私のものなんだから」

菖蒲は椿からひったくるように仁に腕を絡ませた。

「わかってるわよ、お姉ちゃん」

そんな風に全力で愛情表現できる菖蒲の性格も、椿は羨ましいと感じていた。
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