仁の着物を見立てる約束の日。

三月上旬、椿は季節を先取りして桜の柄が華やかな小紋を着て店に立った。

地の色は昔、仁に『似合っている』と言われた桃色――厳密には桃色をより淡くした薄紅梅と呼ばれる色だ。

父親には「子どもっぽい」と嫌な顔をされたが、菖蒲の真似をして大人っぽい色を着たところで、似合わなければ意味がない。

約束の十九時五分前。両親とともに店の前に並び、仁をお迎えする。

やがて一台のハイヤーが店の前に止まり、後部座席から三つ揃えのスーツを着た仁が降りてきた。

運転手を「ご苦労」と労い車を降りる、それだけのさりげない仕草にもかかわらず、放たれる気品と存在感に圧倒される。

今の今まで仕事をしていたからだろう、彼の眼差しは鋭く〝帝王〟と冠するに相応しい貫禄を備えていた。

「お忙しいところ、わざわざご足労いただきありがとうございます」

ぼうっと見惚れていた椿は、父と母が頭を下げたことに気づき、慌てて倣う。

「こちらこそ。都合をつけていただき感謝します」

通常であれば十九時に閉店なのだが、今日だけは仁の来店できる時間に合わせ、十九時から二十一時まで貸し切りとなっている。

両親に案内され店の中に入っていく仁を、椿は緊張しながら見守る。