悪役令嬢の涙。好きな人を守るのためならば、私は悪役でも構いません。

まだ泣けない

「それが何だというのだ」

「呆れて物も言えませんわね。婚約者ではない者と親しくするなど、おかしいではないですか」

「君とリーリエと僕は、同じ幼馴染だろう」

「幼馴染なら、なにをしても許されるというのですか」

「最初に彼女に嫌がらせを始めたのは、君だろう、ティア」

 そう、私だ。

 リーリエにたくさんの嫌がらせをして、リーリエ自身にカイルへと相談させるように仕向けた。

 ここまでは全て、私の計画通りなのだ。

 リーリエがカイルに相談し、二人が恋仲になるのも、私が断罪されるのも全て。

 なのになぜだろう。

 計画がうまくいって、うれしいはずなのに、心が痛い。

 そう、カイルにしなだれかかるリーリエを直視できないほどに。

「だからといって、婚約者のある身でそのようなことをなさるのですか」

 思わず本心がこぼれ落ちる。

「僕の婚約者であるというのならば、どうしてその振る舞いが出来ない」

「それは……」

「カイルさま」

 リーリエがカイルの胸に、顔を埋めた。

 本来ならば、その場所は私のモノだったはずだ。

 でもそれを放棄したのは私。

 だから、我慢……しなくちゃいけない……。

 我慢、我慢、我慢、我慢。

 どうして私だけ……。

 唇を強く噛みしめ、服の胸元を強く掴んだ。

 そして上を向く。まだダメ。そうこれは始まったばかりなのだから。

「どんなに綺麗な言葉を並べても、それが答えなのでしょう? カイル様……」

 ここで消えてしまえたら、どんなに楽なことだろうかと思う。

 本当はもっと、幸せな頃に、幸せな思い出だけ連れて、消えてしまいたかった。

 でも、それでは何も守れないから。

 そう、まだ、ダメだ。今泣いてしまったら、全てが台無しになってしまう。

 我慢、我慢……泣くな。まだ……まだ、ダメ。

 学園での生活は本当にとても楽しかった。

 ここは寮生活なので、あの変わり果てた家を見なくてもすみ、カイルとリーリエの間にいると、あの頃に帰れるような気がしたから。

 両親が生きていた、あの幸せだった頃に。
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