悪役令嬢の涙。好きな人を守るのためならば、私は悪役でも構いません。

死の真実

 学園が夏休みになる一日前、風邪を引いていた私は他の皆より早く家に帰された。

 家の馬車を使わせてもらえないため、街の辻馬車を乗り継ぎ、家に着くころには日も暮れかけていた。

 広間で食事をしている二人に挨拶だけしてから部屋に戻ろうと思っていた。

 いつものように使用人が使う勝手口から入り、広間へ。

 しかしそこで二人の会話を聞いてしまったのだ。

「……まったく、せっかく爵位を手に入れたというのに、ここは金がほんとに少ないな。領地の税を三倍くらいにしないと、遊ぶ金もありゃしない」

「いいじゃないですか、あーんなに簡単にお兄さんたちが死んでくれたんだから」

「あの馬車にティアが乗ってなかったのは誤算だったけどな」

 二人の下品な高笑いが食堂に響き渡る。

 しかし私には、二人の会話が頭に入ってこなかった。

 乗っていなかったのが、誤算? あんなに簡単に死んで?

 なにを言っているの。それは、なんのことを指しているの……。

「でも、いいではないですの。このままティアが公爵家に嫁いだあと、今回のように公爵様には退場していただいてしまえば」

 退場? どこから、誰が退場するというのだろうか。

「それもそうだな。ティアが公爵家に残れば、あそこの金も使いたい放題だ。学園を卒業したら、とっとと籍を入れてもらうようにしなければな」

「ホントに、それですよね」

 そういった後、叔父たちは大きな声でまた笑ってい出す。

 私は口元を押さえ、がくがくとする体をなんとか動かし自室へ逃げ帰った。

 今の言葉を組み合わせれば、嫌でも分かる。

 彼らがなにをしたのか。誰が父と母を殺したのか。

 そして彼らがこの先、何をしようとしているのか。

 両親が領地へと向かう道で盗賊に襲われたのは、このためだったなんて。

 爵位とお金のため、そんなもののために、二人はこの人たちによって殺された。

 そんなもののために……、お父様とお母様は……。

 悲しくて、辛くて、なによりも苦しかった。そんなことも知らずに生きて来たことが。

 どうして二人の死をただ受け入れてしまったのだろう。

 あの時もっと、誰かに調べて欲しいと頼んでいれば、こんな思いはしなかったのかもしれない。

 
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