悪役令嬢の涙。好きな人を守るのためならば、私は悪役でも構いません。

一人で流す涙

 自室に逃げ帰ると、私はドアを閉め、その場に膝から崩れ落ちた。

「なんてことを……。どうしよう、どうしたら……」

 悔しくて、悲しくて動くことも出来ずにあふれる涙を止められない。

 今聞いた話だけでは、叔父たちを捕まえてもらうことは出来ないだろう。

 しかし卒業まであと半年しかない。

 もし卒業後、このまま結婚をしてしまったら、今度はカイルの番だ。

 それだけは、どうしてもそれだけは避けないと。

 頭ではわかっていても、ではどうすればいいのだろう。

 考えなきゃ。考えなければ、今度はカイルが彼らによって殺されてしまう。

 力のない私では、父と母の無念は今は晴らせなくても……カイルまで失ってしまったら生きていけない。

 彼らの計画は、学園を卒業したのちすぐに私たちを結婚させ、その後にカイルを殺害するというものだった。

 殺人計画の止め方などわからない。でも、それならば、私達の結婚自体を止めてしまえばどうなのだろう。

 そもそも、結婚さえしなければ、この計画はまず破綻する。

「カイルに嫌われれば、カイルから婚約破棄してくれるはず。婚約さえ破棄されれば、もう叔父様たちはカイルに手を出すことは出来ない。そうだ……これなら、カイルを守ることが出来る」

 そう口にして、また涙があふれてきた。

「カイル……私は……」

 大好きだ。誰よりも。両親が死んでしまってから、私の唯一の心の支えだった人。

 私はその手を、あの優しさを手放すの?

 無理だよ。そんなこと出来ない。嫌だ。カイルを失いたくない……。

 でもこのことをカイルが知ったら……きっと彼に迷惑がかかる。

「どうして……なんで……。嫌だよ……。誰か、だれか助けて……」

 もちろん私の叫びに耳を傾けてくれる者などいない。

 そしてこの涙を一緒に受け止めてくれる者も、もういないのだ。

 一人がこれほど辛いと思えたことは、なかっただろう。

 両親が死んだ時ですら、あの時は周りにたくさんの人がいたのだから。
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