悪役令嬢の涙。好きな人を守るのためならば、私は悪役でも構いません。

安堵と少しの後悔と、救われないことへの涙

「あー、やっと終わった。終わった。もうばっちりだったわ。全部計画通り、ちゃーんと出来たもの。全部終わり……やっと、おわったよぅ」

 ドアを背にして、そのまま座り込む。

 そう、やっと終わったのだ。

 これでもう、嫌な役を演じなくても済む。

 これ以上、リーリエの泣き顔も、カイルの怒った顔も見ないで済む。

 堪えていた涙が溢れてきた。

「これで……きっとた……すけられ……る。ごめん……なさい。ごめんなさい、ごめんなさい……」

 心の中で何度も謝った。

 二人とも傷つけてしまってごめんなさい。

 お父様、お母様、無念を晴らせずこの地を去ることを許して下さい。

 顔を押さえた指の隙間から、止めどなく涙は溢れてくる。

「ふえぇぇぇ、なんで……どうして」

 ちゃんと出来たはずなのに、こんなにも辛いなんて。

 笑えるはずだった。カイルを守れたんだもの。

 これはハッピーエンドのはずだ。そう、二人が幸せになる……、私が悪役の物語。

「痛いよう……苦しいよぅ……。誰か、たすけて」

 自分がヒロインでなくてもいいと思った。それなのに、その物語はこんなにも私の心を苦しめる。

 せめてなにも関係のない端役なら、まだマシだったのだろう。

「たすけて……」

 知っている。助けも、救いも、私にはないことなど。

 でも一体私がなにをしたというのだろう。なんで私だけがこんなにも苦しまなけれないけないのだろう。

 手にした幸せが、すべてこぼれ落ちていく。

 しかもそれが、あの憎い叔父たちの手によって。

「だれか……私を……たすけてよ」

 ほんの少しでもいい。誰かに抱きしめて欲しかった。追放されるにしても、ただ抱きしめて……。

 膝に顔を埋める。真っ暗な世界は、私の孤独を表すようだった。

 ふいに、急に背にしていたドアが開く。

 そんなことが起こるなどと予想していなかった私は、もたれかかったまま後ろに倒れ込んだ。
< 7 / 11 >

この作品をシェア

pagetop