婚約破棄するはずが、極上CEOの赤ちゃんを身ごもりました
プロローグ
 吐く息が真っ白だ。

 私、水野一葉(みずのかずは)は足もとから冷えてくる寒さに、ぶるっと身を震わせる。

 カーキ色のチェスターコートにジーンズとスニーカー。マスタード色のマフラーはしているが、手袋を日本から持ってくるのを忘れた。

 あまりの冷たさに顔の前で手をこすり合わせて、「はぁ~」と息を吹きかけるが、暖は取れない。

 今、私がいる場所はイタリア北部にあるミラノ。

 羽田空港から真夜中に出発してドバイを経由したのち、十三時過ぎにミラノ・マルペンサ国際空港に到着した。

 空港からシャトルバスに乗り、ミラノ中央駅前広場近くで降りて、先ほどホテルにチェックインをしてキャリーケースを預けてきたところだ。

 すでに時刻は十六時近く。日本で調べたとき、十二月中旬のミラノの日没は十六時四十分あたりだったと記憶している。日があるのはあと四十分ほどだ。

 イタリア語でドォウモと呼ばれる有名な大聖堂や、その前の広場に設置された大きなクリスマスツリー、そのほかの美しい建造物をゆっくり見たい気持ちにはなれないほど、今の私は緊張感に襲われていた。

 それは初めて訪れた土地のせいではなく、これから婚約者に会うせい。

 早く亜嵐(アラン)さんの会社を探さなきゃ。

 彼は世界的に有名な最高級家具の製造・販売をしている会社『フォンターナ・モビーレ』の日本支社長だ。

 イタリアファッションやデザインの中心地、ミラノに本社を置き、世界各地に支社を持つ企業である。

 緊張と寒さで震える手でコートのポケットからスマホを取り出す。彼の会社の所在地を目標に、画面に映し出される方向へ歩を進めた。

 一階に店舗を構えている本社は、街に溶け込むような石造りのどっしりとした五階建ての建物だった。

 周りの店舗から比べたらかなり大きいが、家具などを作る工場は別の街にあると以前亜嵐さんが話していたのを思い出す。

 このような状況でなければ、亜嵐さんに会ううれしさで心臓が高鳴っていただろう。だけど今は、ここへ来た理由を話さなければならないという憂鬱さに押しつぶされそうで、胸は嫌な感じにバクバクしている。

 スマホの地図アプリはしっかりと彼のいるところへ導いてくれた。

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