獅子組と私
迫られる
「いらっしゃいませ」
「一人……あれ?もしかして、椎那?」
「え?卓志(たくし)くん?」
「久しぶりだな~」
「うん」
「元気してんの?」
「うん、元気だよ」

彼・猪俣(いのまた) 卓志は、五年前に別れた元彼だ。

彼との交際期間は一年程で、正直いい思い出がない。

ここに勤める前にいた職場の同僚で、二つ年上の卓志は椎那の指導係だった。
まさに卓志は“女たらし”で、椎那はまんまと卓志の甘い言葉に騙され、もて遊ばれたのだ。

「ねぇ、今日何時終わり?」
「は?」
「久しぶりに、デートでもしようぜ!」
注文をしながら、昔と変わらない口調と雰囲気で話しかけてくる卓志。

「ごめんね、彼の所に行くから無理なの」
「お前、彼氏いんの?」
「うん」
「………」
「な、何?」
「ちゃんと、身体許してやれてる?その彼氏には」
「━━━━━━は!?」
「だって、俺にはヤらしてくんなかったから」
「なっ…!!!」
「………てか、ヤってるみたいだな」

「は?」
「だって、これ!」
そう言うと、椎那の鎖骨に触れた卓志。

「ちょっ…やめ……」
「これ……キスマークだろ?」
「え?」
「こんな見えるとこにあるっつうことは、身体中にあんの?」
「……/////」
「フッ…!!わかりやすっ!椎那って、昔からそうだもんなぁ。すぐ顔に感情が出るもんなぁ」

「私、仕事があるから!」
椎那は卓志の席を去ろうとする。

「でも安心したよ!」
その椎那の背中に話しかける、卓志。
「え?」
「だって、あのまま処女ってのも………な…?」
「なっ…////」

本当に、最低な男だ。
どうしてこんな男と付き合っていたのだろう。

そんなことを思いながら、仕事を再開させた椎那だった。

そして勤務後、外に出ると………
「椎那、デートしてよ?別に変な意味じゃなく、元恋人として。もちろん、奢るから!
……………付き合ってよ!椎那!」

「………」
卓志はあの日のままの柔らかく爽やかな笑顔で、あの時と同じ言葉を発した。
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