月のひかり

【２】会合と、相談

「……でね、お昼一緒に食べたの。こうちゃんの家で」
「へーえ。それで？」
「わたしが味付けしたポテトサラダ、おいしいって言ってくれた」
「ふうん、よかったじゃん」
「うん、すっごい嬉しかった！」
「……って、電話口でいきなり叫ぶんじゃないの。落ち着きなよ」
　舞の呆れたような声に、紗綾は「ごめん」と赤くなりつつ謝る。携帯でしゃべっている最中だということを、つい忘れてしまった。
「まあねー、興奮するのもわかるけど。なんたってほぼ三年ぶりの再会、だったんでしょ？」
「そのくらいになると思う。高校の間、まともに顔見た覚えないし……たまに来ても、仕事忙しいからってすぐ帰っちゃって、タイミング合わなかったみたいだから」
　隣に住んでいるのだから帰省すればすぐわかる、と思っていたのは大間違いで、全然気づかないことが圧倒的に多かった。帰省自体がものすごく少なかった上、半日以上いたことはないと聞いている。
　おまけにいつも予告なしなので、何日に帰ってくるかは当人の両親ですらわからない有様。さすがに休み中、隣家の様子を窺っているわけにはいかなかった。
「それで、よく一目でわかったね。家の前で待ってたにしても」
「だって、全然変わってなかったから」
　見慣れないスーツ姿には一瞬戸惑ったが、それでもすぐにわかった。覚えている頃の幼なじみ、高校の制服を着ていた頃の孝と、同じ顔だったから。
「……、それ、向こうには言ってないでしょうね」
　少しの間の後、舞が何やら困ったように聞いてくる。
「言う機会はなかったけど、なんで？」
「機会があっても言わない方がいいよ。高校の時、っていったらずいぶん前でしょ、その頃と変わらないって言われても嬉しくないだろうから。たとえばあんただって、小学生の時と同じ顔って言われたら微妙じゃない？」
「…………まあ、そうかな」
「でしょ。もっと年いった人ならともかく、二十代じゃ、十代から成長してないって言われたと思っていじけちゃうよ。男の人って意外と、そういうとここだわる人多かったりするし」
　やけに訳知りな口調で言う舞には、八歳上および六歳上の姉がいる。上の二人が結婚するまで同じ部屋で寝起きしていたこともあってか仲は良く、今でも時々三人で会っているようだ。そして年の離れた姉二人の「恋バナ」を、末っ子の舞は逐一聞かされてきたらしい。
　だからなのだろう、恋愛についてはとても客観的で、妙に冷めていたりもする。決してモテないわけではないのに、いまだに正式な彼氏のいたためしがないのは、そのへんに理由があるのかも知れない。……まあ紗綾自身、人のことをとやかく言えはしないのだが。