月のひかり
【3】流れる日々と、自己嫌悪

 六月半ばともなれば、長袖より半袖の方が普通の服装になる。だが今年は、予報で最高気温が夏日と言われても、朝夕がこの時期にしては涼しすぎる日が続いていた。
 今朝、紗綾が家を出る時もそうだった。晴れていて日差しは充分だったが、風が吹くと半袖では少し肌寒いぐらいに。動いているうちに暑くなるかも、とは思ったものの不安になり、つい春先に着るジャケットを出してきてしまった。
 午前中あちこち動き回った後の今は、日差しが痛いぐらいに強く感じられる。とっくにジャケットは脱いでいたが、それでも顔や首筋には汗が浮いていた。
 日曜の今日はサークルの活動で、複数ある大学の最寄り駅のうち、私鉄駅周辺の清掃に協力しているのである。
「お疲れー。一時まで休憩だって」
 と声をかけてきたのは、同学年のサークル仲間、原菜津子。学部も同じという縁で、活動の時は共に行動することが多い。
 同じく一緒に掃除をしていた数人と、少し先の駅前駐車場へ向かう。集合場所兼休憩所として一角が確保されているのだ。
 先に走っていった菜津子は、紗綾たちが休憩所のテントに入ると同時に、ペットボトルを数本抱えて戻ってきた。清掃活動の主催である、町内会から配られたお茶を人数分もらってきてくれたらしい。
 並べられた細長い机を囲むように椅子を確保し、それぞれが昼食を広げる。今日の活動に協力しているのは紗綾たちのサークルだけでなく、駅を挟んだ反対側にある市立大学からも来ているはずだ。だが周辺の飲食店やファーストフード店に行った人間が大半なのか、休憩所にいる学生は少ない。ほとんどが町内会の人らしき年配者だった。
 もっとも、それぐらいのことで二十歳前の女の子のおしゃべりは影響を受けない。周りがおじさんおばさんばかりでも関係なく、大学生女子五人の会話はにぎやかに始まり、にぎやかに続く。
「うわ、池澤さんのお弁当おいしそう」
 右隣に座った文学部の子が、紗綾の弁当箱をのぞき込んで声を上げる。それに応じて他の三人も身を乗り出してきた。
「ほんとだ。自分で作ったの?」
「う……ん、いちおう」
 菜津子の問いに少しだけ躊躇しながら答えると、「へえー」「すごいね」と全員から返された。そう言われて嬉しいし悪い気はしないのだけど、ちょっと後ろめたくも感じるのは、中身の半分は母親作だからである。三色おにぎりと鶏の照焼き、フルーツサラダは自分だが、刻み野菜入り卵焼きと小えびのフリッターは母親に作ってもらった。
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