強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
プロローグ
 素晴らしい壁画の数々。

 一つ一つじっくり見たいのに、素晴らしい作品が多すぎて心行くまで堪能することが出来ない。


 ミケランジェロの大天井画は写真などで見ると片側ずつしか見えないから、空間で見るとこれほどまでに圧倒されるものだと初めて知った。

 順路通りに進んでいるんだろうけれど、人も作品も多すぎて添乗員さんに付いて行くのが精いっぱい。

 背の低めな女性の添乗員さんは人込みですでに姿が見えなくなっている。
 頼りになるのは彼女が持っている鮮やかな青い色の折り畳み傘の先端だけだ。

 他のツアーの添乗員さんも同じようにしているのか、ちらほらとカラフルな色の折り畳み傘の先端が見えた。
 これだけたくさんの人がいるのだから、添乗員さんもそれなりに多い。
 折り畳み傘の先端も似たような色のものがいくつかあって、間違えないかと少し冷や冷やする。

 イヤホンガイドを通して聞こえてくる現地ガイドさんの声に耳を傾けながら、私は必死に足を動かした。


 初めての海外旅行だし、とりあえずは定番を回りたいと思って申し込んだツアー。

 でも、そのスケジュールは中々にハードだった。

 時差があるため、イタリアに着いたのが夜の七時頃。
 その日はそのままホテルで就寝だったから良かったけれど……。

 翌朝からはバス移動と少しの休憩。
 後はひたすら観光地に向かったり、観光地そのものを見るために歩き回ったりとせわしない。

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