強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
恋がすれ違う場所【ケントside】
 店を出た俺は、今購入したものを見て口元を緩めた。

 これを見たら依子はどんな顔をするだろうか。


 喜んでくれるだろうか。
 それよりもやはり驚くだろうか。

 いや、案外逆にこんな高いものを買って、と怒られてしまうだろうか?


 だとしても、どんな彼女でも俺は受け入れられる。

 彼女が俺を受け入れてくれたから。


 日本で共に一夜を過ごした後の朝。
 あの瞬間から俺は依子に恋をしていたんだろう。


 はじめは朝日に照らされた依子があまりにも綺麗に見えて、彼女こそが俺のウェヌスなのかもしれないと思った。

 だからバチカンで再会したときも、俺のウェヌスかどうか確かめさせてもらうということにした。


 実際、あのときは本当に彼女のことを俺のウェヌスだと思えるのか自信が無かったから。

 衝動的なものかもしれない。

 そんな不安はあった。


 それに、再会してから俺が依子に覚える思いは綺麗だというより可愛いというものだった。

 可愛くて、ただひたすらに可愛くて、ドロドロに甘やかしたくなるような感情。


 すぐにその感情に持っていかれて、依子が俺のウェヌスかどうかなんてどうでもよくなってきた。

 それをハッキリ自覚したのはフィレンツェのウフィツィ美術館で見た絵画。
 俺が自分のウェヌスを探そうと決めた要因になった絵画だ。
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