強引でロマンチストなホテル王に溺愛されました。
俺の女神【ケントside】
 何かを引き寄せようとして、その何かがないことに気が付いて目が覚めた。

「んっ……ぅん?」

 目を開けると、腕の中にいると思っていたひとがいない。


「La mia dea……」

 確かに、この腕の中に抱いたと思ったんだが……。

 俺の女神。


 ――いや、あれは依子だ。

 いくら朝が弱い俺でも流石にそこは間違えない。


 だが、どうして彼女を俺のウェヌスだと思ったのか……。
 それは自分でも良く分からない。

 ただ、朝日を背後に微笑む彼女がとても美しく見えて……。


 俺の理想のウェヌスとはかけ離れた容姿と体型。

 誰もが振り向くような美女などではない。
 豊満な体つきをしているわけでもない。


 なのにあの瞬間。

 確かに彼女は俺のウェヌスだった。

 好みだとか、理想だとか。
 そんなものがかき消えてしまうほどの衝撃を覚えた。

 ただとにかく、早く彼女を自分のものにしなければと思った。

 小柄な体を抱き込んで、自分を刻み付けて。

 そうしないと、そのまま俺の前から消えてしまうんじゃないかと思って……。


 キスの一つも満足に出来ない様子は確かに依子で、待ってくれと止めようとするのも彼女の声で。

 それでも、俺のウェヌスだという思いは消えなかった。

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