プーランジェ王立学院には隣国のアスカリッド王立学院との留学制度がある。というのも、使用言語の違いが二国間の交流における障害となっており、とくに上流階級にとってこの壁が高いほど、公務に影響が出る。だから、学生のうちに隣国へ留学して隣国の言葉や文化を学び、将来的に公務へ生かせるようにと、留学制度を立ち上げた。しかし、王立学院に通うような貴族様の中には、好き好んで隣国で勉学に励もうという者は少ないらしい。
 今年、その制度を利用したいと立候補する少女が現れた。彼女の名はアイリーン・ボイド、来月で十六歳。父はこのプーランジェ国の宰相という立場にある、ボイド公爵。まさか、彼女が名乗り上げるとは、誰も予想していなかった。だが、そこにかすかな期待もあった。


「お聞きしましたわ、リーン様」
 同じ文芸部に所属しているクラスメートのジジ。彼女は伯爵令嬢。「隣国のアスカリッドへ留学するって、本当ですか?」
 その問いと同時に赤みのかかった金髪の前髪が、ふわりと揺れた。

 ここはその文芸部室。部室といっても貴族様のご令嬢ご令息が集まるところだから、それなりの応接セットが置いてある。
 テーブルの上には人数分のカップと、それからお菓子が並んでいた。

「ジジさん。情報が早いわね」

「っていうことは、本当なんですか」
 テーブルを挟み、アイリーンとジジは向かい合ってソファに座っていた。
 ジジの隣に座るのは同じく文芸部員のエレナ。彼女は隣のクラスで、子爵令嬢。そんな彼女が口を開く。