【コミカライズ】腐女子令嬢は隣国の王子から逃げられない~私は推しカプで萌えたいだけなのです~
 そんなに感情を揺さぶられたなか、ふと現実に引き戻されたのは、その幕が下がりカーテンコールも終わり、会場が次第に明るさを取り戻した時。
 後ろからお腹の方に回されていたイブライムの手に力が入ったのを感じた。アイリーンがそこから逃げ出すのを阻止しているような。そして、ことりと背中に彼の頭がぶつかったのを感じた。
 アイリーンは首を動かし、イブライムの方に顔を向ける。

「イブ様? どうかなさいましたか?」
 顔を向けたのはいいが、頬には乾いた涙の痕がある。できることなら、見られたくないのだが、イブライムの様子がおかしい。

「終わってしまったな。だけどオレは、リーンを手放したくない。だから、この手を離すのが惜しい」

「ええと、私はどこにも行きませんよ?」

 イブライムがふと顔をあげた。アイリーンと視線が合う。イブライムは彼女を抱きしめていた腕の片方を外して、その頬の涙の乾いた跡に触れた。
 アイリーンは何か言おうと口を開いたが、そこから言葉が紡ぎ出されることはなかった。

 ただ、この後二人がどうなったかは、護衛もいない場所であるため誰も知らないし、ユミエーラの耳に届くこともなかった。
< 356 / 365 >

この作品をシェア

pagetop