冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
六章
 その夜、眠りにつく前のひとときをふたりはゆっくりと過ごしていた。蝶子の身体は背中から晴臣に抱き締められていて、心地よくてとけていきそうだ。晴臣は蝶子のお腹にそっと手を当てる。

「赤ちゃんは元気かな?」
「はい、きっと! この子も晴臣さんがそばにいると安心するんじゃないかな?」

 蝶子はお腹に話しかけるようにそう言った。胎動を感じられるようになるのは、まだ先だけど蝶子はその日が待ち遠しくてたまらない。優しく目を細めた晴臣が言う。

「すっかり母の顔になってきたな。頼もしいよ」
「この子のために強くならなきゃと少し焦っていたんですけど……実際は逆でした。この子が私を強くしてくれる」
「そうだな」

 晴臣は蝶子の肩に顔を埋めて、穏やかにほほ笑んだ。蝶子はふぅと小さく息を吐き、晴臣に話をする覚悟を決めた。

「晴臣さん。実は今日、吉永先生と会う前に紀香さん――継母がここに来ました」

 晴臣は驚いたように目を見開く。眉根を寄せて、低くささやく。

「なにをしに?」
「多分、私たちの結婚のことを……結論から言うと、観月家は賛成してくれないかもしれないです」

 父である公平の意向は聞いていないが、彼は紀香には逆らえない。あの家の実質的な当主は紀香なのだ。
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