冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
三章
 ***

 三か月ほど前、新年を迎えたばかりの一月初旬。

 晴臣は生まれ育った街、渋谷区松濤におり立った。都内に高級住宅街は数あれど、松濤ほど独特な空気を放つ街はないだろう。政治家や芸能人などプライベートを隠したい人間が多く住んでいるせいか、ほかの街には当たり前にある住民の息遣いがまったく感じられず、どこか排他的だ。有島家も例外ではなく、まるで要塞のように高い塀で囲われている。門の奥には洗練された和風庭園が広がっているのだが、外からではそれを拝むことはできない。
 たったいま晴臣をここまで送ってくれたタクシーが去っていくエンジン音を背中で聞きながら、彼は実家のインターホンを鳴らす。応答するのは、有島家に古くから仕えているお手伝いの日紗子だ。

『まぁ、晴臣ぼっちゃま。おかえりなさいませ』

 ちっとも変わらないその声に、いつも鉄仮面のように無表情な彼もほんの少し目尻をさげる。

「ただいま戻りました」
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