冷徹ドクターは懐妊令嬢に最愛を貫く
四章
 朝。身体に気怠さを感じながら、蝶子はゆっくりと重い瞼を開けた。視界に入るのは見慣れぬ天井と壁、そこではたと、ここが旅館だということを思い出した。蝶子は勢いよく上半身を起こして部屋を見渡す。目的のもの――晴臣を見つけて、ほっと胸を撫でおろす。

「おはよう。まだ寝ててもいいぞ」

 窓際のソファに腰かけ優しく目を細める晴臣に、蝶子は恥じ入るように身を小さくした。

「すみません、すっかり寝坊してしまって」
「まだ七時だ。全然遅くない」
「ですが……」

 晴臣が起きているのに、気がつきもせずに寝こけていただなんて恥ずかしい。晴臣は立ちあがると、ゆっくりこちらに近づいてきて蝶子の横に座る。

「ゆうべは無理させすぎたからな。俺のせいだ」

 ゆうべ……蝶子の脳裏にゆうべの晴臣の姿がぽんと浮かぶ。蝶子は赤面してうつむき、白いシーツを見つめた。

「私、ゆうべは、とんでもないことを――」

(あられもない姿を見せ、はしたない発言をたくさんしたような……)

 真っ赤に染まっていた蝶子の顔がみるみるうちに蒼白になっていく。蘇ってきた記憶を、このまま永遠に失ってしまいたいとすら思う。

 晴臣はからかうような目で蝶子の顔をのぞき込む。

「とんでもない? どんなことだ? 忘れてしまったから教えてほしいな」

 口をパクパクさせている蝶子にじりじりと迫りながら、晴臣は続ける。
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