ちょうどいいので結婚します
プロローグ
「社長、心配は有難いですが、何度も申し上げました通り、(わたくし)には目標がございますのでそれを達成するまで結婚は考えておりません」

小宮山(こみやま)千幸(ちゆき)は社長から何度も持ち掛けられる見合い話にうんざりした面持ちでいつも通り断った。

「……そうか。残念だな。向こうは乗り気なんだが」
「会ったこともない相手に乗り気だなんて……」
「いや、毎日会ってる相手だ」
「……毎日?」
一柳(いちやなぎ)君だ」

千幸は父親の話を反芻した。相手の名前ではなく、少し前の。
『向こうは乗り気』その瞬間、千幸の目の前が桜色に染まり花びらが舞った気がした。

「お受けします」

千幸は瞬時にそう答えていた。
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