ちょうどいいので結婚します
第6話 契約結婚
 千幸はとぼとぼ歩き、いつの間にか家へ着いていた。
「お、早いな」
 と、もっと早く帰っていた愛一郎に言われては、「そう?」という微妙な返事になってしまった。
「浮かない顔だな。一柳くんとうまくいってないのか?」
 核心を突かれ、顔に出ないように努めた。不確かな感情で心配させたくなかった。
「え、そんなことないよ。一柳さん凄くスムーズに色々決めてくれて、私の方が至らないくらい」
「そうか」
「うん。近々あちらのおうちにも伺うしこちらにも来て頂くからね」
「そうか。ならいいんだ」
 上機嫌な父親は勇ちゃんにも連絡しないとな、と独り言を言った。千幸は心情を気づかれないうちに部屋に籠ろうと思ったが、ふと思い立った。

「そういえば、お父さん、私たちの結婚ってどうやって決まったの?」

 功至も乗り気だということに浮かれ、詳細を聞いてはいなかった。

「勇ちゃ、一柳君の父上だが意気投合してな、いい子だろ、功至くんは。それに、千幸が公認会計士目指すなら《《ちょうどいい》》だろ。いつまでもうちの会社にいるのもなんだしな。独立の際に千幸も連れてってくれないかと頼んだまでだ。向こうも独身でいるとまわりに色々言われて困ってたみたいでな、独立までに所帯を持たせたかったみたいだ。なぁに、こんな良縁はないってくらい《《ちょうどよかった》》。こっちにとっても、向こうにとっても」
「所帯を《《持たせたかった》》?」

 持ちたいではなく、持たせたいという言い方だった。主語は誰か。千幸は愛一郎の話を理解しようとパチパチと睫毛を打ち合わせた。
< 112 / 179 >

この作品をシェア

pagetop