ちょうどいいので結婚します
第8話 ちょうどいいので結婚します
 二人カフェで向き合い、沈黙の中できっかけを探した。

 千幸は良一に言われた通り、功至に想いを伝えるつもりだったのがつい先程の事である。緊張で心臓がバクバクし、耳の奥がわんわん鳴っていた。だが、あのタイミングで言うのは違ったらしい。奮い立たせた勇気が行き先を無くし萎んでしまった。それをもう一度かき集めているところだ。更に、自分が告白する環境を作るために二人は退席したのだと思っていた。功至の気持ちなど全く気がついていない。

 功至は良一の妹、咲由美の恋人が言った言葉や、良一の言葉を頭の中で順に思い出していた。
『ミラクルな結婚話』
『恋人が迎えに来るのが羨ましい』
『破談になって落ち込む』

 そして、最後の『わかるよね、君』と言った良一の顔。そうだ、わかる。『任せていいよね?』という言葉を思い出し、もう一度頷いた。

「ええ、この人の事任せて俺の右に出る人はいない」功至は笑うと、千幸の固く握った手に自分の手を伸ばした。

 勇気を集めてる真っ只中の千幸は、功至が口を開いたことに、意味は分かっていなかったが、ビクリと肩を揺らした。そして、功至の手が触れたのが、タイミングだと思った。

「功至さん、お話しておきたいことがあって、聞いて下さい。私、実は、」

 功至の手で包んだ千幸の手は冷えていて、細かく震えていた。

「待って」
 そう言われ千幸はビクリとして、功至を見上げた。困るのだと思った。自分の気持ちは功至に迷惑なのだと。

 だが、千幸は功至の表情を見て驚いた。思っていたのと違う、困っていない優しい瞳だったからだ。
「待って下さい。せっかく勇気を出して何かを伝えようとしてくれたのに遮ってすみません。だけど、今日は、今日だけは、俺に我儘を言わせて欲しい。先に、俺の話を聞いて」

 功至は千幸の指先の震えを止めるように、きゅっと握った。
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